■バングラデシュを襲った過激派「JMB」の正体
政府が唱える”IS関与なし”は本当か
http://toyokeizai.net/articles/-/125941
(東洋経済 2016年7月06日)
7月1日夜、バングラデシュの首都ダッカで起こった立てこもりテロ事件は、人
質20名、うち邦人7名の犠牲者を出す最悪の結果となった。
事件に対して、イスラム国(IS)が犯行声明を出す一方、バングラデシュ政府
は「ISの関与はない」(アサドゥザマン・カーン内相)と国際テロ組織の関与を
認めていない。同政府の見解に欧米メディアは異を唱え、「バングラデシュ政府
は認めたがらないが、ISによる犯行は明らか」といった論調が主流だ。
だが、ISという結論づけも、思考停止に陥る。本当に政府の言うことはでたら
めか。南アジアの貧困国である同政府の置かれた状況は複雑である。報道されて
いるような、「ISが関与するバングラデシュで起こったホームグロウンテロ」と
いう認識だけでなく、拡大する域内テロの脅威、南アジア周辺の大国に翻弄され
ながらの弱小国なりの舵取り、と認識することによって、その背景の全体像が見
えてくる。
テロリスト養成キャンプが点在
今回の実行犯らが所属していたとされる、「ジャマトゥール・ムジャヒディン
・バングラデシュ」(JMB)とは、いかなるテロ組織か。同組織は1998年に結成さ
れ、2005年8月に起こったバングラデシュ同時爆破テロ事件へ関与したことで知ら
れる。その活動目的は、「シャリーアに基づくイスラム国家の樹立」であり、ア
ラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、クウェート、バーレーンなど、個々の
異なる国際資金源があるとされる。「インド亜大陸のアルカイダ」と協力関係に
ある「アンサルラ・バングラ・チーム(ABT)」と並び、同組織は現在特に活動が
目立つ、バングラデシュの2大過激派組織の一つである。
このJMBの脅威は、同国だけでなく、インドでも問題となりつつある。インドの
西ベンガル州は、バングラデシュと同じベンガル語を話すベンガル人が住む地域
であり、同州のイスラム教徒もいるため、バングラデシュから越境してインドに
入り込むことはたやすい。そのため、同組織はバングラデシュの組織でありなが
ら、実はそのテロリスト養成キャンプがインド東部に点在している。
この脅威は、2014年10月2日にインド西ベンガル州ブルドワンで起こった爆破事
件で、明るみに出た。インド西ベンガル州で、政権与党トリナムール会議派事務
所の2階に部屋を借り、爆弾を製造していたテロリストたちが誤って爆弾を爆破さ
せて死亡。その後、現場からは、50以上の爆弾やタリバンのビデオ、偽造パスポ
ートなどが押収されたからである。
同組織は、インドのテロ組織「インディアン・ムジャヒディン(2008年のムン
バイ同時テロへの関与が疑われる)」とも連携している。インドとバングラデシュ
は、国境周辺がテロの温床となる危機感を共有している。過去数十年、インドと
バングラデシュにおける諜報機関の協力では、バングラデシュがインドへ情報提
供を行う一方、インドはバングラデシュへの情報提供の要請に対して消極的だっ
た。しかし、同事件以降は、両国の諜報機関の間で相互協力が行われているとみ
られる。
バングラデシュは、ヒンドゥー教極右団体を支持母体に持つインドのモディ政
権となぜ親しくできるのか、不思議に感じるかもしれないが、自然なことだ。そ
の前提には、同国は人口の9割がイスラム教徒である一方、憲法で「世俗主義(政
教分離)」を保証する国家で、イスラム国家ではないということを理解する必要
がある。この点でパキスタンとは異なる。
政権与党「アワミ連盟」も、世俗主義を掲げ、イスラム教と適度に距離を置く
中道左派的政権である。親インド、反パキスタンだ。一方、事実上の最大野党で
ある、「バングラデシュ民族主義党(BNP)」は(直近選挙をボイコットしたため
議席はゼロ)、イスラム寄りで、この逆となり、反インド、親パキスタンとなる。
つまり、域内2大国の間で、揺れ動きやすい。イスラム国家建設を夢見る過激派に
とって、世俗主義を掲げる現政権は敵であり、利害の一致するパキスタンは友と
なりやすいのだ。
今回の事件後、バングラデシュのハサヌル・ハク・イヌ情報相は、テロリスト
への武器供給で、パキスタンの諜報機関である軍統合情報局(ISI)の関与があっ
たことを示唆した。ISIによるJMBへの関与疑いについて、最近の事例では、2015
年12月にスパイ容疑でJMBのメンバー4人(うち1人はインド人)を逮捕した事件が
ある。
当局の発表では、メンバーの1人イドリス・シェイク容疑者は、1985年にインド
経由でパキスタンに渡り、現地で結婚、2007年にバングラデシュに戻った後、JM
Bでテロ活動に関与するようになったという。さらに「パキスタンへの渡航歴48回」
「諜報機関ISIとの密接な関係があった」とも供述した。同容疑者はその後、ダッ
カ裁判所で「在バングラデシュのパキスタン女性外交官から金銭を受け取った」、
とも証言している(パキスタン政府は容疑を否定している)。テロ支援にISIが関
わっているというのが、バングラデシュ政府の見立てである。
斬首・銃撃など残虐な事件が相次いでいた
さらにバングラデシュ政府は、このJMBとバングラデシュの野党「イスラム協会
(ジャマーティ・イスラミ)」がつながっている、とも指摘している。同政党は
穏健的ではあるが、イスラム原理主義政党で、バングラデシュ独立前のパキスタ
ンの政党が前身であり、パキスタンとの関わりも深い。
同党は2001年から2006年まで、バングラデシュ民族主義党(BNP)とともに連立
政権を組んでいたが、ハシナ政権下で2013年に非合法化し、今年5月には同党党首
の死刑執行まで行った。6月にはBNP党員の大量逮捕に踏み切るなど、テロ対策に
名を借りて、野党へ政治弾圧も行っていることは否定できず、その強権ぶりは非
難されてしかるべきだ。
しかし、バングラデシュのような小国、失敗国家にとって、何が最善か、代替
案を指し示すのは容易ではないことも事実である。「ヘファジャテ・イスラム」
のような、イスラム原理主義の市民団体が新たに誕生し、影響力拡大の兆しを見
せ、さらにテロ活動も活発化する中では、政教分離を維持するだけで難しい。
特に2015年から今年にかけて、同国内ではヒンドゥー教徒やクリスチャンなど
の宗教的マイノリティ、無神論者、世俗主義者、与党幹部などを銃撃しナタで斬
首するなど、残忍な襲撃事件が相次いでいた。その延長線上に今回の大規模テロ
が起こった。軍と警察を武器に、独裁的に格闘し続けてきた政府にとって、「IS
の犯行」と簡単に片付けたくない状況が確かに存在するといえる。
今回の事件で、ISからは犯行声明が出ている。少なくとも表面的には、ISとの
結びつきは明らかで、バングラデシュ政府の言う「ISとは関係ない」という説明
には、無理がある。だが、実行部隊はJMBという”域内のテロ組織”であり、その
背後にある資金源や武器を供給する域内勢力がなければ、テロは起こらないこと
も事実だ。
結局、今回は、JMB組織全体とISが結びついたうえでの犯行なのか、同組織に身
を置く狂信的な若者の一部が単独的にISと結びついた犯行か、現時点では定かで
ない。後者の場合、確かに犯行の中心にISがあるのかもしれない。彼らにとって
は、ISという国際テロ組織の器を利用することで「世俗主義を掲げる現政権に対
し、外交的損失や外資撤退という経済的損失を与えて弱体化を図り、イスラム国
家建設へ布石を打つ」という目的が達成しやすくなるのであれば、ISの名を借り
るのもまた好都合、という判断につながるだろう。
JMBの組織の全容は分かっていない
「イスラム神学校の生徒でなく、裕福な家庭で育った若者」という実行犯のプ
ロファイルや、”処刑スタイル”と現地紙が報道する残忍極まりない殺害方法を
取ったことは、ISに影響を受けたか、あるいは(実行犯の人選含め)緻密な計算
でISに影響を受けたフリをしたか、のどちらかだ。どちらにしても、同国政府へ
の国際的非難が彼らの勝利となり、外交的孤立や経済的困窮は、さらなる失敗国
家への転落、さらなる過激主義台頭を意味する。
バングラデシュを中心に、南アジアで活動するJMBの組織の全容は分かっていな
い。一説には、フルタイムの活動家が1万人、パートタイムの活動家が10万人存在
する、ともいわれている。脅威はISだけではない。地域の情勢を熟知したテロリ
ストたちが、国境を超え、インド亜大陸を跋扈していることを見逃してはならな
い。
■円借款の供与に関する日本国政府とバングラデシュ人民共和国政府との間の
二の書簡の交換に関する件
http://kanpou.npb.go.jp/20160713/20160713h06816/pdf/20160713h068160003.pdf#search=
(官報 2016年7月13日)
○外務省告示第一一百八十五号
平成二十八年六月二十九日にダッカで、円借款の供与に関する次の二の書簡の交
換がバングラデシュ人民共和国政府との間に行われた。
平成二十八年七月十三日
外務大臣岸田文雄(円借款の供与に関する日本国政府とバングラデシュ人民共和国
政府との間の交換公文)(日本側書簡)
(訳文)
書簡をもって啓上いたします。本使は、バングラデシュ人民共和国の経済の安定
及び開発努力を促進するために供与される日本国の借款に関して日本国政府の代
表者とバングラデシュ人民共和国政府の代表者との間で最近到達した次の了解を
確認する光栄を有します。
1 千六百十五億五千万円(一六一、五五〇、○○○、○○○円)の額までの円貨に
よる借款(以下「借款」という。)が、この書簡の付表(以下「付表」という。)に
掲げる事業計画(以下「計画」という。)を実施することを目的として、各事業計
画につき付表に定める配分に応じ、独立行政法人国際協力機構(以下「JICA」とい
う。)により、日本国の関係法令に従って、バングラデシュ人民共和国政府に供与
されることになる。
2 (1)借款は、バングラデシュ人民共和国政府とJICAとの間で締結される借款契約
に基づいて使用に供される。借款の条件及び使用に関する手続は、この了解の範
囲内で、なかんずく次の原則を含むことになる前記の借款契約によって規律され
る。
(a)償還期間は、十年の据置期間の後三十年とする。
(b)利子率は、年○・〇一パーセントとする。
(c)それぞれの支出期間は、付表の2及び5に掲げる事業計画については関係借款
契約の発効の日の後十年、付表の3及び4に掲げる事業計画については関係借款契
約の発効の日の後七年並びに付表のーに掲げる事業計画については関係借款契約
の発効の日の後六年とする。
(2)(1)に規定する借款契約は、JICAが計画の実行可能性(環境に対する配慮を含む。
)を確認した後に締結される。
(3)(1)に掲げるそれぞれの支出期間は、両政府の関係当局の同意を得て延長する
ことができる。
3(1)借款は、バングラデシュの実施機関が調達適格国の供給者、請負業者又はコ
ンサルタントに対して行う支払であって、計画の実施に必要な生産物又は役務の
購入のために両者の間で締結されることのある契約に基づいて行われるものを対
象として使用に供される。ただし、当該購入は、調達適格国において、それらの
国で生産される生産物又はそれらの国から供給される役務について行われる。
(2)(1)に規定する調達適格国の範囲は、両政府の関係当局間で合意される。
(3) 借款の一部は、計画の実施のための適格な現地通貨の需要に充てるために使
用することができる。
4バングラデシュ人民共和国政府は、3ωに規定する生産物又は役務がJICAの調達
のためのガイドライン(国際競争入札の手続が適用できないか又は適当でない場合
を除くほか、従うべき国際競争入札の手続をなかんずく定める。)に従って調達さ
れることを確保する。
5バングラデシュ人民共和国政府は、借款に基づいて購入される生産物の海上輸送
及び海上保険に関し、海運会社及び海上保険会社の間の公正かつ自由な競争を妨
げることのあるいかなる制限を課することも差し控える。
6 3(1)に規定する生産物又は役務の供給に関連してバングラデシュ人民共和国に
おいてその役務が必要とされる日本国民は、作業の遂行のためバングラデシュ人
民共和国への入国及び同国における滞在に必要な便宜を与えられる。
7バングラデシュ人民共和国政府は、次のものを免除する。
(a)JICAについて、借款及びそれから生ずる利子に対して又はそれらに関連してバ
ングラデシュ人民共和国において課される全ての財政課徴金及び租税
(b)供給者、請負業者又はコンサルタントとして活動する日本国の会社について、
借款に基づいて行われる生産物又は役務の供給から生ずる所得に関してバングラ
デシュ人民共和国において課される全ての財政課徴金及び租税
(c)供給者、請負業者又はコンサルタントとして活動する日本国の会社について、
計画の実施に必要な自己の資材及び設備の輸入及び再輸出に関してバングラデシュ
人民共和国において課される全ての関税及び関連の財政課徴金
(d)計画の実施に従事する日本国民である被用者について、計画の実施のため供給
者、請負業者又はコンサルタントとして活動する日本国の会社から取得する個人
所得に対してバングラデシュ人民共和国において課される全ての財政課徴金及び
租税
8バングラデシュ人民共和国政府は、次のことのために必要な措置をとる。
(a)借款が適正に、かつ、専ら計画のために使用されることを確保すること。
(b)借款に基づく施設の建設及び当該施設の使用に当たり、計画の実施に従事する
者及びバングラデシュ人民共和国の一般公衆の安全を確保し、及び維持すること。
(c)借款に基づいて建設される施設がこの了解に定める目的のために適正に、かつ、
効果的に維持され、及び使用されることを確保すること。
9バングラデシュ人民共和国政府は、要請に応じ、日本国政府及びJICAに対し、次
のものを提供する。
(a)計画の実施の進捗状況についての情報及び資料
(b)計画に関連するその他の情報
10両政府は、この了解から、又はそれに関連して生ずることのあるいかなる事項
についても相互に協議する。

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